スコットランドFAQ – 8

Twitterで「スコットランド」というキーワードの検索結果をTweetDeckのコラムに設定しておいてチェックしているのですが、サッカーワールドカップが始まると急にサッカー関係のツイートが増えました。その内容を要約すると、大体こんな流れになります。

なぜイギリスチームを「イギリス」じゃなくて「イングランド」って呼ぶの?

え、イングランドとかスコットランドとかって国なわけ?

ふーん、イングランドってのはイギリスの一部なのか。じゃあスコットランドやウェールズ、北アイルランドからはなぜ出ないの?

どうしてイギリスだけ4チームも出場できるの?不公平じゃん。

イギリスで統一したチーム出した方が強くなるだろうに、何で統一しないの?

というわけで、このあたりの事情を『スコットランドFAQ』シリーズの一環としてまとめてみたいと思います。
なお、関連した話として2年前の北京オリンピックの時に書いた「オリンピックとスコットランド」と題する記事も参考にしてください。こちらにもサッカーの話がちらっと出てきます。

なぜイギリスチームを「イギリス」じゃなくて「イングランド」って呼ぶの?

「イギリス」という日本語はThe United Kingdomという国と、その一部であるEnglandという地の両方を指して使われることがあり面倒くさいのですが、サッカー国際試合ではUnited Kingdomから4ヶ国の代表チームが出場するため、混乱を避けるためにイングランドのチームは日本でも「イングランド」と呼んでいます。United Kingdom全体を代表するサッカーチームは存在しません。

え、イングランドとかスコットランドとかって国なわけ?

スコットランドFAQ – 1に書いたとおりの事情になっています。

イングランド、スコットランド等は、英語で言うところのcountry(国土としての「国」)でありnation(国民としての「国」)でもあるのですがstate(政治国家としての「国」)ではありません。StateであるUnited Kingdom(連合王国)を構成するcountryでありnationです。連合王国ではイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つをまとめて”home nations”と呼んでいます「国内の国」というようなイメージでしょうか。

こちらもご参照くださいませ。
「英国」と「イギリス」

ふーん、イングランドってのはイギリスの一部だけなのか。じゃあスコットランドやウェールズ、北アイルランドからはなぜ出ないの?

予選の段階では4つの代表チームが全て出場しているのですが、残念ながらイングランド代表以外はすべて予選敗退に終わりました。ちなみに4チーム全てが揃ってW杯に出場したのは1958年が最後。ウェールズはサッカーよりラグビーが盛んなお国柄で、これ以降一度もW杯に出場していません。北アイルランドは1958年、1982年、1986年大会に出場、1958年には決勝トーナメント進出を果たしています。スコットランド代表は1950年以来計8回出場したものの全てグループ敗退。スコットランドがW杯に出場した最後の年は1998年のフランス大会で、ちなみにこれは日本代表がW杯に初めて出場した年でもあります。

どうしてイギリスだけ4チームも出場できるの?不公平じゃん。

簡単に言えば、これはサッカーというスポーツが組織化された時代以来の事情によります。

サッカーの母国
イングランドは一般に「サッカーの母国」と呼ばれています。サッカーと似たような球技は日本の蹴鞠を始め古くから世界中にあったのですが、現在のサッカーはイングランドで発達したバージョンをベースにしたもので、イングランドで1863年に設立されたフットボール・アソシエーション(FA)が制定したルールに基づいているため「アソシエーションフットボール」と呼ばれています。「サッカー(soccer)」という名前は、アソシエーション(Association)の略称「Assoc」に由来しています。サッカーはまず連合王国全土に、そしてヨーロッパへ、世界へという順番で広がりました。まず連合王国内でFAに続いて各nationのサッカー協会が設立されました。FA設立の10年後の1873年にスコットランドサッカー協会(SFA)が、そして1876年にウェールズサッカー協会(FAW)、1888年には北アイルランドサッカー協会(IFA)が誕生しました。この時点ではそれぞれの協会が少しずつ違うルールで試合していたため、国際試合のためには統一ルールが必要だという話になり、1882年に4協会合同で国際サッカー評議会(IFAB)という組織を設立し、ルールを規定しました。この組織は現在でも国際サッカーのルールを規定する機関として続いています。

FIFAの登場
サッカーの人気はヨーロッパでも拡大し、やがて国際試合の運営などを行う組織が必要だとの認識から国際サッカー連盟(FIFA)が誕生します。設立は1904年。ヨーロッパ大陸の8カ国の代表が集まり、パリで設立した、ヨーロッパ主導の組織です。とはいえ当時の認識としてはサッカーは連合王国から発祥したスポーツで、本場はあちら。ルールについても連合王国の規定に従うことにし、先行の4協会がFIFAに加盟する一方、1913年にはFIFAがIFABへの参加を認められることになりました。ただし、この時にはFIFAと4協会は同じ議決権を持つという規定になっていたため、世界のサッカーの代表であるはずのFIFAの提案でも、4協会が結託すれば却下できるようになっていました。IFABにおけるFIFAの立場は、あくまで「主流4協会」に対する「その他大勢代表」という扱いだったのです。これは1958年に議決権が改定されるまで続きました。

ワールドカップ
FIFAがサッカーワールドカップを創始したのは1930年。それに先駆けてサッカーは1908年にオリンピック種目に加わっており、FIFAもオリンピックでのサッカー競技運営には参加していたのですが、アマチュア限定というオリンピックの足かせのため真の世界トップを決めるには不足という認識から、FIFA独自の国際大会を設立するに至ったのです。FIFAに加盟する各国サッカー協会の選出した代表チームが戦うという形なので、もちろん最初から連合王国からは4代表チームがそれぞれ出ました(ただし、1950年以前のワールドカップには連合王国4協会の代表は参加していない)。政治的な国の境界線とサッカー協会の枠組みが不一致なのは連合王国に限ったことではなく、国連加盟国の総数は192カ国であるのに対し、FIFA加盟協会数は208。例えば台湾、香港、パレスチナなど、政治的には「国」ではないが代表チームを出している国があります。

FIFA、特にアフリカ諸国の協会を中心にして、「連合王国4チーム体制は不公平、統一すべき」という声は過去にも出ています。しかし4協会は頑としてこの圧力に反対し、19世紀から続く現体制を維持してきました。

イギリスで統一したチーム出した方が強くなるだろうに、何で統一しないの?

イングランドが「サッカーの母国」であり、連合王国の4つのnationがサッカー普及の源流だったことを忘れてはいけません。スコットランド出身でリバプールFC黄金時代の名マネージャーとして名声を博したビル・シャンクリーは言いました。

“Some people think football is a matter of life and death. I assure you, it’s much more serious than that.”

(サッカーを生死に関わる問題だという人もいるがね、馬鹿を言っちゃいけない。サッカーはもっともっとずっと重要な問題なんだ)

世界初のサッカー国際試合は1872年。対戦したのはスコットランド対イングランドでした。それ以前にも「イングランド対スコットランド」戦という試合は行われていたのですが、スコットランドチームの実態はイングランドでプレイしていたスコットランド人の集まり。そこで真のスコットランドチームとイングランドという対決をやろうということになってこのカードが実現したのです。当時はまだスコットランドサッカー協会も設立されていない、いわばサッカーの黎明期。が、後発組で劣勢と思われたスコットランド代表はホームゲームの利と、選手全員を同一クラブから選出するという戦略で意外な強さを見せ、惜しくも勝利を逃して引き分けという結果に持ち込みました。19世紀後半といえば、18世紀にへし折られた民族のプライドを取り戻そうというナショナリズムがスコットランド全体で高揚してきていた時期。果敢な戦いぶりを披露したこの試合はスコットランド人にとって大きなインパクトを残したのです。以来スコットランドにとってはイングランドは永遠のライバル。一緒にやった方が強いなんて発想は最初からありません。それは例えばカナダのアイスホッケーチームに対して「チームUSAと合併したら無敵なのに」と言うのと同じこと。合併などするならそれこそ死んだ方がまし、というまさに「生死より重要な問題」なのです。

この「連合王国サッカーチーム」問題は、2012年のロンドンオリンピックに向けてまた浮上しました。これまで連合王国ではこうした事情からオリンピックのサッカーにはチームを出してこなかったのですが、さすがに主催国のお国芸なのに出場なしというのはまずいだろうという声が高まったのです。が、もし統一チームの前例を作ってしまったらFIFAからまた4協会統一への圧力が高まるのは必至と考えるスコットランドサッカー協会は猛反対。ウェールズ、北アイルランドの協会も反対の姿勢をとり、国民の声もこれを支持しました。結局、「スコットランド・ウェールズ・北アイルランドはこれまで通りオリンピックのサッカーには関与せず、統一チームを組織することもしない。ただし、イングランドが「連合王国代表」という名の下に単独で出場することは阻まない」という合同声明が出て、事態は一応の決着を見ました。

逆にスコットランドで「オリンピックにもスコットランド独自チームを出したい」という声があることは、「オリンピックとスコットランド」にも書いた通りです。

もしイングランドのFAがFIFAからの圧力に同調して4協会合併を図ろうとしたり、政府が統一を勧告するような事態が今後出てきたらどうなるか?おそらくこれは政治問題に発展するはずです。スコットランドには自治議会があり、その与党はスコットランド独立を党是に掲げる民族主義の政党。前回の選挙ではごくわずかな得票数差で勝利したものの過半数には遠く、連立も結局しないまま少数政権でやってきましたが、サッカーの独立喪失という事態が出てきたら、次の選挙では大勝することが予想されるでしょう。そうなればサッカーにとどまらず国家独立に向けて動き始めるのは確実です。たかがサッカーがきっかけで国が独立、なんて日本人の目から見たらあり得ないかもしれませんが、忘れてはいけません。スコットランド人にとって「サッカーは生死より重要な問題」なのです。

2 thoughts on “スコットランドFAQ – 8”

  1. 久しぶりに気になる話題なので。

    イギリス連合チーム・・・
    これを認めてしまうとSFAは自身の存在意義を失うので死ぬ気で抵抗するでしょうね。
    強引にやろうとすれば社会動乱にまで発展するかも?
    まぁウェールズ辺りはさっさと転びそうですが(おぉっと)

    ただギグスが代表引退した今、他の3協会からイングランドを戦力アップさせられる選手が居ますかね・・・・・・・・・あ、GKは欲しがってるか。

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