ふだん着のスコットランド 5章 7

5章 スコットランド人って何だ?

それから 〜終わりに代えて〜

スコットランド議会の成立

 スコットランド議会は、「ふだん着のスコットランド」の連載を終えてから1年後、1999年に初の選挙を行った。イギリスでははじめて比例代表制をとりいれ、小選挙区制と組み合わせた選挙になった。1つの議会に2つの票を投じるなんて初めてのことで、有権者が混乱してしまうのではないかと選管は心配していたらしいが、結果的には杞憂だったようだ。

 投票結果は比例代表制だからもちろん各党の支持率をほぼ忠実に反映して、労働党が大差をつけて1位、SNPが2位、保守党が議席復活の3位、自民党が4位に順当におさまった。ただ、労働党が過半数を割ったことと4大政党以外の候補者が3人も当選したことが予想外の結果だった。小選挙区制では少数政党や無所属候補が当選することはほとんどないので、マスコミではこれを大きく取り上げた。

 しかも当選した3人のうち1人は元労働党国会議員で、左派なのでトニー・ブレアの不興を買いスコットランド議会の候補に選ばれなかったため、無所属として立候補して労働党から除名されたといういわくつきの人物。地元では人気のある人で、この選挙で最大の得票数での堂々当選となった。残りの2人も片方は労働党よりもずっと左派である社会党、もう一方がやはり労働党の右傾化に批判的な緑の党の候補者ということで、労働党は勝ったとはいえあまりうれしそうではなかった。

 労働党は結局自民党と手を結んで連立内閣を組んだ。議会は、議事堂がまだできていないので仮の議事堂で開会され、最年長ということで開会式の仮議長をつとめたSNP議員の「1707年に休会されたスコットランド議会をここに再開する」という開会の辞とともに、なかなか感動的な第1歩を進めた。

スタートは多難

 しかし感動なんてものは長くは続かないもので、いざ始まってみるとスコットランド議会は今までの国会とそれほどかわりばえもせず、規模が小さく議題がローカルなぶんだけいささかせこい印象もあり、しかもはじめての議会だからまずは議員の給料とか諸経費の扱いとか休暇とかいった生ぐさい話から始めなければならなかったこともあって、国民の評価は一気にがた落ち。イギリスでは珍しい連立政権も何かとぎくしゃくして、最初の1歩はおせじにもスムーズとはいえなかった。

 記念に建設することになった、スペイン人建築家による「ひっくり返った船の中に棺桶形の議場」という斬新?なデザインの議事堂も、やたらとお金がかかるというので反発を買っている。与野党各党にも理由はちがうが同じように批判ばかりが高まって、最初の半年くらいは良いニュースはほとんどなかった。自治というのもやってみるとけっこうむずかしいものなのだ。

 今後スコットランドはどうなっていくのだろう。自治議会の設置により、独立の望む声は今のところ小さくなっているようだ。かといって、やはり前の方がよかったのにという声も聞かない。2大政党のやり合いをベースにするイギリス議会とは運営スタイルがかなり違う、スコットランド議会の委員会中心のコンセンサス政治は、議会誕生1周年を経てようやく軌道に乗ったところだ。いろいろ不満はあってもまずはやってみようという様子見の時期なのだろう。

スコットランドは独立するか?

 スコットランドがいつか独立すると思うか?と聞かれたら、私は正直にわからないと答えるしかない。グラスゴーに行けば、たくさんのスコットランド人が今日もサッカー場でユニオンジャックを振って反カトリックの歌を歌っている。その一方で若い人の間では、戦争を経験した世代に比べると”Britain”という枠組みへのこだわりは薄く、「いいんじゃない、独立したって」という見方が強まりつつあるという統計もある。

 一方イングランドではスコットランドやウェールズで自治が始まったことへの反発から、「イングランド民族主義」と呼んでいいような感情が育ちつつあるようだ。イングランド=イギリスとのんびりかまえていられなくなったイングランドが独自のアイデンティティに目覚めるのは当然といえば当然の帰結で、これによってスコットランドがわざわざ独立するまでもなく「イギリス(Britain )」という枠組みが崩壊してしまうというシナリオもあり得る。

 スコットランドの未来の姿がどうなるのかは、イングランド人が今後どう出てくるかによるというのが実情かもしれない。イングランド人があるからこそスコットランド人があるというのが、いささか矛盾したスコットランド人の本質なのだから。(2002年加筆)

©杉本優 許可なく転載不可


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