Labour defy odds in Glenrothes ・・・もうひとつの選挙

スコッツマン紙の見出し。
Labour defy odds in Glenrothes

11月4日の米国大統領選挙でバラック・オバマが当選し、8年ぶりの民主党政権奪回、そしてアメリカ初の黒人大統領誕生となりました。この選挙は世界でも注目を集め、結果が報道されると各国から祝いの声が寄せられましたが、実はその2日後、スコットランドでは同じくらい(?)注目を集める選挙が行われました。ウェストミンスター議会グレンロセズ選挙区の補欠選挙です。この選挙区は労働党のジョン・マクドゥガル議員の議席でしたが、今年8月に議員が死去したことにより空席となっていました。選挙が行われたのが3ヶ月近く後になったのは、補欠選挙日程決定権を持っていた労働党の意向によるもので、9月の労組や政党の年次総会シーズンを避けるためでした。またアメリカ大統領選挙と同じ週に日程を設定したのも故意ではないかとの声もありました。もし敗北した場合に「労働党、また敗北」のニュースが大統領選挙という大ニュースの影に隠れて目立たないようにとの配慮だったのではないかというのです。

というのはこの選挙、場所が悪い。グレンロセズ選挙区というのはブラウン英国首相の議席の隣り、いわば裏庭に当たる位置にあります。もともとは炭鉱の町で、昔からの労働党の大票田。2005年の総選挙では、マクドゥガル議員は次位候補に倍以上の大差をつけて当選しています。本来なら労働党としては何の心配もしなくていい議席だったのですが、今年はそう安心していられません。スコットランド議会はすでにSNP(スコットランド国民党)が労働党から政権を奪い、以来意外に支持を堅く維持していますし、一方ブラウン政権は大不評。今年の夏には同じく労働党の大票田だったはずのグラスゴー・イースト議席をSNPに奪われるという考えられない事態も起きていて(くわしくはこちらを参照)、「グラスゴー・イーストが転ぶなら、他のどこが転んでも不思議はない」という認識がありました。実際、この補欠選挙に関する世論調査でもSNP支持の声は大きく、スコットランド労働党にとってはこの選挙、負ける覚悟で挑む戦いだったのです。しかし裏庭を奪われたとなるとブラウン首相の方にも指導力を問う批判の矢が向かうことは必至なので、この補欠選挙はスコットランド労働党だけでなく、英国政治全体にも影響する可能性があると注目されていました。「大ニュースの影に悪いニュースを隠そうというつもり」との声が上がったのもそのせいです。

ところが、10月に入ってこの情勢を一気に転じる大きな事件が起きました。世界金融危機です。もともとは昨年から明るみに出た米国のサブプライムローン問題に端を発するこの金融危機、すでに英国でも去年のノーザン・ロック銀行の信用危機と政府による救済など、米国以外の国にも他人の話ではないことはわかっていましたが、今年10月にはニューヨーク市場大暴落が起き、世界を震撼させる大危機に発展しました。米国ではこの金融危機がブッシュ政権批判に結びつき、変革を訴えるオバマ候補の追い風になって選挙戦の行方を決定したとの見方が一般的ですが、この同じ金融危機が、グレンロセズ補欠選でも大きな影響を及ぼしました。

SNPにとって決定的な痛手となったのは、アイスランドの国家財政破綻のニュースでした。そもそもSNPはスコットランド独立を党是に掲げる政党。スコットランド議会では政権党としていろいろ国政政策もあるわけですが、常に話題になるのは「スコットランド独立に関する国民投票をいつやるのか?」という問題です。SNPは次回のスコットランド議会選挙が行われる2011年までに国民投票を実施するとの計画で、現在それに向けて「国民との対話」プロジェクトを展開中です。その際、「欧州でも強い発言権を持つ大国からわざわざ分離して小国になるなんて無謀」という独立反対意見に対してSNPが挙げていたのが”Arc of Prosperity”、つまり「繁栄の円弧」の例でした。「繁栄の円弧」とは、北ヨーロッパの端を弧を描いて取り囲むように位置する小国群のことで、小国でありながら欧州内でも有数の富裕国であることから、「スコットランドも独立してこの弧に加わろう」と訴えたわけです。この円弧を現在形成している国というのが西のアイルランド、北のノルウェー、そしてアイスランドなのでした。アイルランドの人口は600万弱、ノルウェーは480万程度、そしてアイスランドはわずか30万強。地理的にも近いこれらの国にできて人口500万強のスコットランドにできないことはない、というのがその主張です。中でも人口はひとケタ少ないながら世界トップクラスのGDPを誇るアイスランドの存在は、説得力があったのです。

ところが今回の金融危機により、その独立小国の輝ける星、アイスランドの経済の知られざる脆弱性があらわになりました。アイスランドは金融立国とも言われ、金融部門がGDPに占める割合が多かったのですが、実はこの金融部門が得ていた富の多くが海外からの預金によるものであり、米国発の金融危機を引き金に預金の引き上げが始まると、銀行はあっという間に信用破綻の危機に直面してしまい、小国アイスランドの限られた国庫では救済もままならない状態に陥ってしまったのです。おまけにこのあおりを食い、アイスランドのオンラインバンクを利用していた英国ユーザーも被害を被るという事態になってアイスランドと英国の関係は一気に冷え込み、アイスランドは輝ける星から「やっぱり小国はダメだ」と指差される存在に転落してしまったのでした。”Arc of Prosperity”(繁栄の円弧)どころか”Arc of Bankrupsy”(国家倒産の円弧)だと揶揄されるに至って、補欠選挙直前の世論調査では「スコットランド独立支持下落」の結果が報道され、SNPは一気に苦しい戦いを強いられることになりました。

そんな背景の中で投票日を迎えた補欠選挙は、蓋を開けてみれば労働党候補が7000票近い差をつけて議席を守るという結果になりました。裏庭を奪われずに済んだブラウン首相も一安心。「風が吹けば桶屋が儲かる」なんてことわざがありますが、オバマ氏を勝利に導いた金融危機の追い風は、英国ではブラウン首相を守る神風になったようです。今後米国が新大統領を迎え、経済再建に着手するわけですが、世界経済の動きに応じてスコットランドの政治情勢がどうなるかが注目されます。

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