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Loony Dook

エディンバラと言えば世界でも有名な(んですよ)大晦日パーティーイベントの開催地。

スコットランドでは伝統的に大晦日の夜のことをホグマネー(Hogmanay)と呼び、新年の到来を盛大に祝う慣習があります。0時を迎えると同時に近所の家を訪れ合い、1年の幸運を祈って乾杯する First Footing から、エディンバラだけでなく各地の都市で開催される野外パーティまで、祝い方はさまざまですが、酒が入るのは共通項。夜通し飲んでからベッドにもぐり込み、元日は二日酔いと共に過ごす…というのが一般的なパターンです。

でも新しい年の始まりなのにそれじゃちょっと不健康だよね、ということで、手っ取り早い酔い覚まし法として始まった比較的新しい伝統行事が、この Loony Dook です。

Loonyは「頭がいかれた」、Dookは「水に浸けること」または「飛び込み」で、要は寒中水泳。エディンバラから15キロほど西にある、フォースブリッジで有名なサウス・クイーンズフェリー(South Queensferry)の岸辺から、勇ましく水中に駆け込みます。1986年にジョークとして始まったのだそうですが、チャリティ募金イベントとしても人気が出て年々参加者が増加。今ではポリッジ(お粥)のメーカーがスポンサーになり、エディンバラのホグマニーイベントの一環として開催されるようになっています。

面白いことに、私が以前住んでいたオランダのハーグにもNieuwjaarsduikという名前の類似のイベントがあって、やはり元日に、北海に面した砂浜から海に駆け込んで寒中水泳をします。歴史はこちらの方が長いようで、毎年スープのメーカーがスポンサーになり、参加者に熱いスープを振る舞っています。

オランダ版では水着でやりますが、スコットランド版はLoonyな仮装をするのが正統派で、仮装パレードで街を練り歩き、スポンサーが提供する湯気の立つポリッジでお腹を温めてから水に入ります。ちなみに参加者はチケットの事前購入必須なので、飛び込み参加はできません。

Stoats Loony Dook, 1-1-2017, South Queensferry
https://edinburghshogmanay.com/events/loony-dook

2015年英国総選挙結果

昨日行われたUK国会総選挙の結果ですが、とりあえず分析は置いておいて、まずはスコットランドとイングランドに分けたデータを貼っておきます(画像はBBCニュースサイトのスクリーンショット)。

スコットランド

Scotland 2015

イングランド

England

最左翼にポジションを張るSNPが全票の半数を集めて議席をほぼ総なめしたスコットランド。その一方で、議席を伸ばして単独過半数を達成した保守党と得票率を大幅に伸ばしたUKIPという右翼2政党が勝ち組となったイングランド。

全く違う2つの総選挙が戦われたのだな、という感想を抱いたのは私一人でしょうか?

 

2015年英国議会総選挙とスコットランド(ツイートまとめ)

ご無沙汰しております。

今、英国では総選挙戦がたけなわです。で、さかんに世論調査のデータが発表されているのですが…

名称未設定

※ 最新の議席数予想についてはこちらを参照してください→ May2015 forecast

SNPは昨年の独立投票で敗北した後急激に党員が増え、投票前の5倍に膨れ上がりました。いまや全人口の2%はSNP党員。子供も含めてスコットランド人の50人に1人は党員ということになります。

4月13日には、スコットランド人の半数以上がSNPに投票するとの世論調査結果が発表されました。小選挙区制マジックの効果で、半数の票を集めれば9割の議席が獲得できてしまいます。ちなみにスコットランドの総議席数は59。

おまけ1:で、今年に入ってからメディアではさかんに「SNPの脅威が増大」「悪の親玉サモンドが数を頼んで労働党を操り英国を分裂させようとしている」と報じていたんですが、先日の7党首ディベートでは全国区でほとんど顔を知られていなかったSNP党首スタージョンが好印象を残したらしく。

おまけ2:ちなみに今は、Twitter検索欄に I wish と入力すると予測入力で I wish I could vote SNP がトップ表示されるという珍現象が起きています…。

名称未設定

9月8日深夜のツイートまとめメモ(スコットランド独立投票について)

これもメモです。

Yuno Dinnie/杉本優@yunod

そもそも1997年の「自治を与えて独立をつぶす」方針は一定成功してて、SNPが政権とっちゃったのは労働党にとっては大誤算だったけど、政権とった時点でのサモンドSNPは、「よっしゃ―次は独立だ」という感じでは全然なかった。もちろん党内の強固な独立派が突き上げてくるから(続)

posted at 11:27:40

(承前)「自治議会で政権が軌道に乗ったら自治拡大→独立ね」とは言ってたけど、そこへ「独立ってブラフだろ、やれるものなら期日切って投票やれよ」と横槍入れてきたのはキャメロン。「現状維持・自治拡大・独立」の三択投票というSNP案を蹴ってYES/NO二択を主張したのもキャメロン。(続)

posted at 11:31:26

(承前)逃げ道を封じられて渋々YESキャンペーンを始めたものの、その時点では勝つ見込みがあるとはSNPの誰も考えていなかった。と思う。ところがYESが草の根運動化して、いつの間にかじわじわと支持を増やし始めてしまった。これを「どうせ無理無理」と傍観してたのは労働党と保守党。(続)

posted at 11:35:34

  

(承前)2007年にそれやって自治政権を奪われた経験からは学ばなかったらしい。あと、こういうの→ gu.com/p/3q2ag/tw もじわっと嫌な感じ。労働党が中心で動かしてるキャンペーンなのに、お金持ちがポンと札束放ってくれるなんて保守党みたいで。というわけで(続)

posted at 12:01:03

  

(承前)第1回目のディベートではポイント取ったものの、2回目では轟沈…。ダーリングってそもそもディベートでファンを勝ち取るタイプの政治家じゃないんだよなあ。サモンドは逆にそういうの大得意だし。ダメージ受けたところでさらに…(続)

posted at 12:10:38

  

(承前)…こんなとんでもない自爆手まで打ってしまった→ gu.com/p/4x3zn/tw YES草の根は大はしゃぎ。そういう状況の中8月が過ぎ、9月第1週にまとめられたのがYouGovの調査。初めてYES/NOが僅差ながらひっくり返るという驚愕の事態に。←今ココ

posted at 12:16:39

  

個人的にはまだNOに十分勝算があると思ってますが、現在の事態を招いたのはひとえにスコットランドを(それぞれ異なる意味で)なめきっていた保守党と労働党にあるという気はするし、今頃パニクって変な手を打ったら逆効果になる可能性も大だと思うし、本気なら真面目にやってくださいよと言いたい。

posted at 12:21:33

  

以上、「もし自分が今スコットランドに住んでたらどっちに票を入れているか」という問題はとりあえず置いておいて、個人的な印象をまとめてみました。ではおやすみなさい。

2014年4月20日発表の世論調査結果(ツイートまとめ)

あとでまとめて何か書くつもりですが、とりあえずメモとしてツイートまとめておきます。

Scottish independence poll:Yes on brink of victory – The Scotsman:

 

Scottish independence poll:
最新調査結果はNo 42%、Yes 39%、DK 19%。DK除くとNo 52%、Yes 48%。今回はスコットランド在住イングランド人の回答を分けて出してるのが新しい。初めて?

 

Scottish independence poll:
イングランド人はNo 58%、Yes 28%。スコットランド人はNo 40%、Yes 42%。この結果自体がYesキャンペーンの追い風になる可能性もあるなあ。

 

Scottish independence poll::
他にも色々面白い数字が出てるな、この記事。「No回答者の10%、Yes回答者の18%は、気が変わるかもと言っている」とか「労働党投票者の24%がYesと回答」とか。

 

Scottish independence poll:
「No回答者の38%は自治の拡大を望んでいる」「No回答者の4%は、自治拡大の見込みがないならYesに転じる」というのもなかなか興味深い。両キャンペーンのこれからの舵切りに注目。

 

 より、スコットランド独立世論調査結果の推移(1) Embedded image permalink

 

 より、スコットランド独立世論調査結果の推移(2)決めていない、答えたくない等の回答を除外したYes/No限定のグラフ。 Embedded image permalink

 

まあ普通に考えれば、当日にはDKの人は大体Noを選び、心変わりした人も含めると結局Noがすんなり勝利というのがいちばんありそうなシナリオなんだけど、2007年の選挙の時にもまさかあり得ないよねーと言ってるうちにSNPが滑り込み勝利したので、どっちに転ぶかホントにわからない。

書籍紹介・「公認ガイドが語るスコットランドこぼれ話」

2012年に出版された本ですが、紹介がちょっと遅くなりました。

スコットランドこぼれ話

スコットランドこぼれ話

スコットランドには、観光ガイド協会が公認する「ブルーバッジガイド」というプロの観光ガイドがいます。中には日本人のガイドさんもいて、スコットランドで旅行した経験のある方の中には、ブルーバッジガイドさんのお世話になった人もいるかもしれませんね。私の知人の中にも元ブルーバッジガイドの人や現役で活躍している人がいます。

日本人ブルーバッジガイドさんのうち7人がそれぞれの興味や視点からスコットランドを紹介したのがこの本です。タイトルの通り、7人それぞれがスコットランドについてこぼれ話を披露するという型式になっていて、テーマもスタイルも各人各様。スコットランド各地の紹介(南部ボーダーズから北部のオークニー諸島までいろいろ)からパブでのビールの頼み方、スコーンのレシピから「ジキル博士とハイド氏」の作者と吉田松陰との知られざる関係(私も知りませんでした)まで、たくさんの小ネタが満載です。

出版元はスコットランドの出版社なので、カバーに印刷されている価格はポンド建て。ISBNのグループコードも4(日本)ではなく1(英語圏)で、装丁も日本の本とはちょっと違う印象?日本語の本でも流通上は洋書扱いなのでしょうか。書店では入手しにくいと思いますが、日本のアマゾン等で普通に購入できます。スコットランド情報ドットコムのスコットランド本紹介のセクションにも追加しておきましたので、>>こちら<<からどうぞ。

ブログ紹介:蘇格蘭独立事情見聞録

最近Twitterでフォローいただいた方のブログを紹介します。

蘇格蘭独立事情見聞録

書いているのはエディンバラ大学で博士号取得を目指し歴史学の研究をしている方。

私はスコットランドを離れてもう4年半、たまに短期の旅行で帰る程度なので、正直現地事情にだんだん疎くなっている実感があります。

現地に住んでいる方の発信する情報ということで、今後注目していきたいと思います。

【新刊書】 「スコットランド・キルト・コレクション」もうすぐ発売です

石井理恵子・杉本優共著の新刊が出ますのでご案内。

スコットランド・キルト・コレクション (制服・衣装ブックス)

新紀元社「制服・衣装ブックス」シリーズの最新刊です。フルカラーで写真満載。キルトに萌えるスコットランド好きには堪えられない一冊です。
私が絡んでるため、歴史背景の解説がやたらと詳しいです(笑)。
英国軍ハイランド連隊の歴史を伝える非常に貴重な写真も掲載することができ、ファッション本の枠を超えた非常に充実した内容になっています。
アマゾンにて予約受付中。内容画像もあります。

スコットランド・キルト・コレクション
石井 理恵子 (著), 杉本 優 (著)
価格: ¥ 1,680

* 単行本(ソフトカバー)
* 出版社: 新紀元社 (2011/4/21)
* 言語 日本語
* ISBN-10: 4775309056
* ISBN-13: 978-4775309056
* 発売日: 2011/4/21

なお、明日この本の出版記念イベントが4月16日(土)にサクラカフェ幡ヶ谷にて開催されます。
バグパイプの演奏つき。
18:30(開場18:00)より、参加費1500円(ドリンク&おつまみ付)
詳しくはhttp://britcat.blog.so-net.ne.jp/をご覧ください。

スコットランドFAQ – 9(バグパイプについてのツイートまとめ)

例によってTwitterの「スコットランド」キーワード検索を読んでいたら、こんな会話が進行していた。

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amekura101: ボヘミア地方にバグパイプっていうイメージが湧きにくい。

amekura101: 手元のハーヴァード音楽辞典だと、ヨーロッパだけでなく、北アフリカ、中近東、中央アジア、インドでも人気があった/あると書かれていました。うーん。イメージ (先入観) っていうのは恐ろしいものですねえ。ありがとうございます。 @shostakovich @maroemon

maroemon: そうですね。でも実はかなり広く分布しているんですよね。個人的には東欧だとポーランドのが有名という感じを持っています。RT @amekura101: ボヘミア地方にバグパイプっていうイメージが湧きにくい。

maroemon: @amekura101 それなのに、なぜスコットランドのやつだけがこんなに有名になったのか、調べたら面白そうですよね。誰かやってくれないかなあw

amekura101: 観光、帝国主義、ナショナリズム、民族ステレオタイプの創生、なんて勝手にキーワードを出してみたり。 RT @maroemon: @amekura101 それなのに、なぜスコットランドのやつだけがこんなに有名になったのか、調べたら面白そうですよね。誰かやってくれないかなあw

tinouye: @maroemon わたしは単純にあの服装とセットで有名なんであって、バグパイプだけだったらきっと有名になってなかったと思います。

maroemon: @tinouye なるほど、他と同じなのにそれだけが突出して知られているケース、ということですね。そういうケースは、なにか特別な要因が関係してそうですし、調べると面白ろそうですね。

tinouye: @maroemon 問題を矮小化するようで申し訳ないですが、単にマーケティングとして売るという行為も、最近はやりのご当地ものやご当地グルメみたいなのも、別にそこにしかないわけぢゃない場合を考えると人工的にそれを作る方法論かも。

maroemon: @tinouye いえいえ、見落とせない視点だと思います。スコットランドのバグパイプを考えたときに、例えば「音楽の都ウィーン」という類のイメージがどう作られて消費された/されているのかという問題を連想しました。

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ので、部外者なんだけど乱入してみた。この間のキルト話とも関連があるので、以下に乱入ツイートをまとめてみました。

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個人的な推測ですが、大英帝国軍での使用の影響は大きいと思います。<バグパイプ=スコットランドの固定観念 RT @maroemon: @amekura101 それなのに、なぜスコットランドのやつだけがこんなに有名になったのか、調べたら面白そうですよね。誰かやってくれないかなあw
posted at 01:51:10

(バグパイプ=スコットランドの固定観念:続き)英国陸軍ではスコットランドのハイランダー連隊というのが幾つもあって、勇猛果敢な歩兵隊というので非常に重用されました。アフリカでの領土拡大から第一次大戦まで、エピソードに事欠きません。 RT @maroemon: @amekura101
posted at 02:08:59

(バグパイプ=スコットランドの固定観念:続き)ハイランダー連隊の攻撃はバグパイプが先頭に立ち、キルト着た歩兵集団がその後について敵陣に突っ込んでいくというスタイルでした。どんな劣勢でもお構いなし。神風攻撃歩兵版というイメージ。 RT @maroemon: @amekura101
posted at 02:13:20

(バグパイプ=スコットランドの固定観念:続き)バグパイプの音と共に現れるキルト軍団という突飛さもあってすごくインパクトが強かったらしいです。で、このスタイルで世界に版図を広げたから世界的にイメージが定着したのではないかと。 RT @maroemon: @amekura101
posted at 02:18:06

(バグパイプ=スコットランドの固定観念:続き)ちなみにバグパイプ楽隊って歴史が古いところはみんな軍楽隊だし、民間のバグパイプ楽隊も通常は軍用キルトスタイルのユニフォーム着ますね。スタンダード曲は進軍用行進曲中心。 RT @maroemon: @amekura101
posted at 02:22:49

(バグパイプ=スコットランドの固定観念:続き)そして日本の場合バグパイプ×キルト(=スコットランド)というイメージを植え付けたのは「キャンディキャンディ」だと思うんですが、あの「丘の上の王子様」もミリタリーキルト着てましたw RT @maroemon: @amekura101
posted at 02:27:06

スコットランドFAQ – 8

Twitterで「スコットランド」というキーワードの検索結果をTweetDeckのコラムに設定しておいてチェックしているのですが、サッカーワールドカップが始まると急にサッカー関係のツイートが増えました。その内容を要約すると、大体こんな流れになります。

なぜイギリスチームを「イギリス」じゃなくて「イングランド」って呼ぶの?

え、イングランドとかスコットランドとかって国なわけ?

ふーん、イングランドってのはイギリスの一部なのか。じゃあスコットランドやウェールズ、北アイルランドからはなぜ出ないの?

どうしてイギリスだけ4チームも出場できるの?不公平じゃん。

イギリスで統一したチーム出した方が強くなるだろうに、何で統一しないの?

というわけで、このあたりの事情を『スコットランドFAQ』シリーズの一環としてまとめてみたいと思います。
なお、関連した話として2年前の北京オリンピックの時に書いた「オリンピックとスコットランド」と題する記事も参考にしてください。こちらにもサッカーの話がちらっと出てきます。

なぜイギリスチームを「イギリス」じゃなくて「イングランド」って呼ぶの?

「イギリス」という日本語はThe United Kingdomという国と、その一部であるEnglandという地の両方を指して使われることがあり面倒くさいのですが、サッカー国際試合ではUnited Kingdomから4ヶ国の代表チームが出場するため、混乱を避けるためにイングランドのチームは日本でも「イングランド」と呼んでいます。United Kingdom全体を代表するサッカーチームは存在しません。

え、イングランドとかスコットランドとかって国なわけ?

スコットランドFAQ – 1に書いたとおりの事情になっています。

イングランド、スコットランド等は、英語で言うところのcountry(国土としての「国」)でありnation(国民としての「国」)でもあるのですがstate(政治国家としての「国」)ではありません。StateであるUnited Kingdom(連合王国)を構成するcountryでありnationです。連合王国ではイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つをまとめて”home nations”と呼んでいます「国内の国」というようなイメージでしょうか。

こちらもご参照くださいませ。
「英国」と「イギリス」

ふーん、イングランドってのはイギリスの一部だけなのか。じゃあスコットランドやウェールズ、北アイルランドからはなぜ出ないの?

予選の段階では4つの代表チームが全て出場しているのですが、残念ながらイングランド代表以外はすべて予選敗退に終わりました。ちなみに4チーム全てが揃ってW杯に出場したのは1958年が最後。ウェールズはサッカーよりラグビーが盛んなお国柄で、これ以降一度もW杯に出場していません。北アイルランドは1958年、1982年、1986年大会に出場、1958年には決勝トーナメント進出を果たしています。スコットランド代表は1950年以来計8回出場したものの全てグループ敗退。スコットランドがW杯に出場した最後の年は1998年のフランス大会で、ちなみにこれは日本代表がW杯に初めて出場した年でもあります。

どうしてイギリスだけ4チームも出場できるの?不公平じゃん。

簡単に言えば、これはサッカーというスポーツが組織化された時代以来の事情によります。

サッカーの母国
イングランドは一般に「サッカーの母国」と呼ばれています。サッカーと似たような球技は日本の蹴鞠を始め古くから世界中にあったのですが、現在のサッカーはイングランドで発達したバージョンをベースにしたもので、イングランドで1863年に設立されたフットボール・アソシエーション(FA)が制定したルールに基づいているため「アソシエーションフットボール」と呼ばれています。「サッカー(soccer)」という名前は、アソシエーション(Association)の略称「Assoc」に由来しています。サッカーはまず連合王国全土に、そしてヨーロッパへ、世界へという順番で広がりました。まず連合王国内でFAに続いて各nationのサッカー協会が設立されました。FA設立の10年後の1873年にスコットランドサッカー協会(SFA)が、そして1876年にウェールズサッカー協会(FAW)、1888年には北アイルランドサッカー協会(IFA)が誕生しました。この時点ではそれぞれの協会が少しずつ違うルールで試合していたため、国際試合のためには統一ルールが必要だという話になり、1882年に4協会合同で国際サッカー評議会(IFAB)という組織を設立し、ルールを規定しました。この組織は現在でも国際サッカーのルールを規定する機関として続いています。

FIFAの登場
サッカーの人気はヨーロッパでも拡大し、やがて国際試合の運営などを行う組織が必要だとの認識から国際サッカー連盟(FIFA)が誕生します。設立は1904年。ヨーロッパ大陸の8カ国の代表が集まり、パリで設立した、ヨーロッパ主導の組織です。とはいえ当時の認識としてはサッカーは連合王国から発祥したスポーツで、本場はあちら。ルールについても連合王国の規定に従うことにし、先行の4協会がFIFAに加盟する一方、1913年にはFIFAがIFABへの参加を認められることになりました。ただし、この時にはFIFAと4協会は同じ議決権を持つという規定になっていたため、世界のサッカーの代表であるはずのFIFAの提案でも、4協会が結託すれば却下できるようになっていました。IFABにおけるFIFAの立場は、あくまで「主流4協会」に対する「その他大勢代表」という扱いだったのです。これは1958年に議決権が改定されるまで続きました。

ワールドカップ
FIFAがサッカーワールドカップを創始したのは1930年。それに先駆けてサッカーは1908年にオリンピック種目に加わっており、FIFAもオリンピックでのサッカー競技運営には参加していたのですが、アマチュア限定というオリンピックの足かせのため真の世界トップを決めるには不足という認識から、FIFA独自の国際大会を設立するに至ったのです。FIFAに加盟する各国サッカー協会の選出した代表チームが戦うという形なので、もちろん最初から連合王国からは4代表チームがそれぞれ出ました(ただし、1950年以前のワールドカップには連合王国4協会の代表は参加していない)。政治的な国の境界線とサッカー協会の枠組みが不一致なのは連合王国に限ったことではなく、国連加盟国の総数は192カ国であるのに対し、FIFA加盟協会数は208。例えば台湾、香港、パレスチナなど、政治的には「国」ではないが代表チームを出している国があります。

FIFA、特にアフリカ諸国の協会を中心にして、「連合王国4チーム体制は不公平、統一すべき」という声は過去にも出ています。しかし4協会は頑としてこの圧力に反対し、19世紀から続く現体制を維持してきました。

イギリスで統一したチーム出した方が強くなるだろうに、何で統一しないの?

イングランドが「サッカーの母国」であり、連合王国の4つのnationがサッカー普及の源流だったことを忘れてはいけません。スコットランド出身でリバプールFC黄金時代の名マネージャーとして名声を博したビル・シャンクリーは言いました。

“Some people think football is a matter of life and death. I assure you, it’s much more serious than that.”

(サッカーを生死に関わる問題だという人もいるがね、馬鹿を言っちゃいけない。サッカーはもっともっとずっと重要な問題なんだ)

世界初のサッカー国際試合は1872年。対戦したのはスコットランド対イングランドでした。それ以前にも「イングランド対スコットランド」戦という試合は行われていたのですが、スコットランドチームの実態はイングランドでプレイしていたスコットランド人の集まり。そこで真のスコットランドチームとイングランドという対決をやろうということになってこのカードが実現したのです。当時はまだスコットランドサッカー協会も設立されていない、いわばサッカーの黎明期。が、後発組で劣勢と思われたスコットランド代表はホームゲームの利と、選手全員を同一クラブから選出するという戦略で意外な強さを見せ、惜しくも勝利を逃して引き分けという結果に持ち込みました。19世紀後半といえば、18世紀にへし折られた民族のプライドを取り戻そうというナショナリズムがスコットランド全体で高揚してきていた時期。果敢な戦いぶりを披露したこの試合はスコットランド人にとって大きなインパクトを残したのです。以来スコットランドにとってはイングランドは永遠のライバル。一緒にやった方が強いなんて発想は最初からありません。それは例えばカナダのアイスホッケーチームに対して「チームUSAと合併したら無敵なのに」と言うのと同じこと。合併などするならそれこそ死んだ方がまし、というまさに「生死より重要な問題」なのです。

この「連合王国サッカーチーム」問題は、2012年のロンドンオリンピックに向けてまた浮上しました。これまで連合王国ではこうした事情からオリンピックのサッカーにはチームを出してこなかったのですが、さすがに主催国のお国芸なのに出場なしというのはまずいだろうという声が高まったのです。が、もし統一チームの前例を作ってしまったらFIFAからまた4協会統一への圧力が高まるのは必至と考えるスコットランドサッカー協会は猛反対。ウェールズ、北アイルランドの協会も反対の姿勢をとり、国民の声もこれを支持しました。結局、「スコットランド・ウェールズ・北アイルランドはこれまで通りオリンピックのサッカーには関与せず、統一チームを組織することもしない。ただし、イングランドが「連合王国代表」という名の下に単独で出場することは阻まない」という合同声明が出て、事態は一応の決着を見ました。

逆にスコットランドで「オリンピックにもスコットランド独自チームを出したい」という声があることは、「オリンピックとスコットランド」にも書いた通りです。

もしイングランドのFAがFIFAからの圧力に同調して4協会合併を図ろうとしたり、政府が統一を勧告するような事態が今後出てきたらどうなるか?おそらくこれは政治問題に発展するはずです。スコットランドには自治議会があり、その与党はスコットランド独立を党是に掲げる民族主義の政党。前回の選挙ではごくわずかな得票数差で勝利したものの過半数には遠く、連立も結局しないまま少数政権でやってきましたが、サッカーの独立喪失という事態が出てきたら、次の選挙では大勝することが予想されるでしょう。そうなればサッカーにとどまらず国家独立に向けて動き始めるのは確実です。たかがサッカーがきっかけで国が独立、なんて日本人の目から見たらあり得ないかもしれませんが、忘れてはいけません。スコットランド人にとって「サッカーは生死より重要な問題」なのです。