スコットランドFAQ – 7(キルトの話のツイートまとめ)

Twitterの会話でキルトの話が出ていたので乱入して延々と語りつぶやいてしまいました。ちょうどキルトについての本の企画が進行中なので、ネタメモ代わりに記録を残しておくことにしました。会話の端緒は、「スコットランド人カップルが連れ立って歩いているのを見たが、男性はキルト姿だけど女性の方は普通のスーツ姿」という話。というわけで、スコットランドFAQ・キルト編です。

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キルトはスコットランドでは普通に礼服扱いだから、男性キルト、女性は普通の(でもドレッシーな)洋服って割と当たり前な感覚です。 RT @okok_o: @mogyayome スコットランド伝統衣装ではないという意味の「普通服」でした ただしくはスーツ姿(よそいき風)。
posted at 09:59:51

特に無いんです。伝統芸能だとタータンスカートはいたりドレスにタータンサッシュかけたりするけど、あとは男性キルトでも、女性はドレスコードに合わせた洋服が普通。 RT @mogyayome: @okok_o そう言えばスコットランドの女性用衣装って何も印象に残っていない気が…
posted at 10:07:36

でもヨーロッパでは特に民族衣装と呼べるものがない国が多いですよね。逆に独特の民族衣装があって今も普通にそれを着るという国の方が珍しいかも。キルトはけっこう特殊事情もあるし。 RT @mogyayome: @yunod 特にないというのは驚きでした。なんだか非対称ですね。
posted at 10:22:23

キルトの特殊事情: キルトはもともとスコットランドの民族衣装ではなくハイランドの民族衣装。しかも英国を震撼させた1745年のジャコバイト反乱後、キルトの着用は法律で禁止令された。
posted at 10:37:58

キルトの特殊事情(続き): 禁止令で唯一除外されたのが軍でのキルト着用。反乱でも示されたハイランダーの勇猛さが注目され、軍組織への取込みを図った。その際「軍ではキルト着ていいよ」が釣りになった。
posted at 10:44:32

キルトの特殊事情(続き): ハイランドが徹底弾圧を受ける中、ハイランダーとしての誇りを持って行動できる場として軍が提供された。現在のキルトはこの軍服の流れを汲んでる。
posted at 10:48:38

キルトの特殊事情(続き): 一方キルトをスコットランド全体の民族衣装に変えた立役者は作家ウォルター・スコット。UK体制下でスコットランド文化復興に熱心だったスコットは、キルト禁止令解除をきっかけに南部でのキルト普及を図った。
posted at 10:52:58

キルトの特殊事情(続き): 1822年の国王訪スコのイベント演出を担当したスコットは、なんと国王にド派手なキルトを着せ、ハイランドをイメージしたパレードをエディンバラで実行した。
posted at 11:00:09

キルトの特殊事情(続き): 国王のキルト姿は当時のメディアで散々揶揄されたものの、スコットの狙いは成功し、その後「キルトはスコットランドの民族衣装」という意識が定着していった。礼服としてのキルトの起源はこの辺りにある。
posted at 11:05:56

ちなみに「クランのタータンでキルトを作って着る」ってのはそれよりさらに後世に生まれた伝統で、布地屋がたくさんの「クランタータン」を創作したw
posted at 11:09:20

あ、ちなみに今度キルトに関する本を共著します。私はこの手の薀蓄担当w 出るのは来年になりますがよろしく〜♪
posted at 11:11:41

人気画家による肖像画→ http://bit.ly/apaIEs / 実物により忠実らしいカリカチュア→ http://bit.ly/a0MtKr RT @Ckis: うわーなんか見てみたい。かっこよさそう。RT @yunod: スコットは、なんと国王にド派手なキルトを着せ…
posted at 12:28:10

肖像画の色は実物よりかなりトーンダウンしてるらしい。おまけにピンクのタイツ履いてたらしいw RT @yunod: 人気画家による肖像画→ http://bit.ly/apaIEs / 実物により忠実らしいカリカチュア→ http://bit.ly/a0MtKr RT @Ckis
posted at 12:31:10

「英国」と「イギリス」

オリンピックとスコットランド」の最後に「スコットランド人か英国人か?」というアンケートの統計について書きましたが、これ、英語の原文では “Scottish or British?” です。決して “Scottish or English?” ではありません。

私は日本語で自分のことを説明するときにはふつう「イギリスから引っ越してきた」と言います。これは、「スコットランドから来た」と言ってもその「スコットランド」がどこだか知らないという人がけっこういるため。ただ、「イギリスから」と言うと、今度は十中八九「イングランドから来た」のだと解釈されてしまうのが困りものです(「スコットランドFAQ – 1」も参照)。スコットランドに行ったことがある方やスコットランド人と話したことがある方はよく知っている通り、スコットランド人はイングランド人と間違えられると心情的にちょっとカチンときます(日本人でも海外で中国人と間違えられるとちょっとむっとしますよね)。私も「イングランドにいたんだよね」と言われると、つい「イングランドじゃなくてスコットランド!」と言い返してしまいます。

英語で言う United Kingdom/UK もしくは Britain (どちらも United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland の略)の日本語訳として一般に使われる「イギリス」と「英国」、どちらも厄介な言葉です。問題はそもそも「イギリス」という言葉の語源。正確な由来には諸説あり、ポルトガル語のInglês、あるいはオランダ語のEngelsとも言われていますが、いずれにしても英語のEnglish、つまり「イングランドの」という意味です。それが日本語ではまず「エゲレス」という表現になり、次第に訛って「イギリス」になりました。また、「英国」の方は「エゲレス」を漢字表記した「英吉利」からきているわけで、要するにどちらももともとはイングランドを指す表現ということになります。日本に初めてポルトガル人がやってきたのは1542年、オランダ船リーフデ号が漂着したのは1600年。このリーフデ号にはイングランド人のウィリアム・アダムズ(のちに三浦按針という日本名を名乗る)も乗り込んでいました。当時はまだイングランドとスコットランドは同じ島を住み分ける別々の独立王国でした。イングランド王国から来たイングランド人ウィリアム・アダムズのことを説明するのに「イングランドの」と言うのはまあ当然だったわけです。

その後1603年にイングランド王国でエリザベス一世の死によりチューダー王家が断絶し、遠縁であるスコットランド王国のスチュアート王家がイングランド王位を継いだことで、両国は同じ王を戴く「同君連合」と呼ばれる状態に入りました。しかし経済的・政治的事情から両国は1世紀後の1707年に(スコットランド国内世論の強硬な反対にもかかわらず)完全合併しました。小国であるスコットランドが国会を解散してイングランド議会に吸収されるという形での連合で、実質上はイングランドによるスコットランドの吸収でしたが、これによって「イングランド王国」「スコットランド王国」の名は共に消え、新しい国家「グレートブリテン連合王国」が誕生しました。けれどそんな事情は遠い異国のことで日本にはわからない話。ヨーロッパ各国語には「ブリテン」「連合王国」に当たる表現があって「イングランド」とはきっちり分けられているのですが、日本ではなんとなく曖昧なまま、「エゲレス」転じて「イギリス」だけが「イングランド」と「グレートブリテン連合王国」両方を指す表現として定着してしまったのでした。

政府筋などでは、こうした事情から「イギリス」は混乱を招きやすい表現なので、UK全体を指す場合には「英国」という表現を使う、という慣例が近年定着しているようで、たとえば外務省ウェブサイトの各国情勢セクションでは、「英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」として紹介されています。また英大使館等の関連サイトでも「英国」で基本的に統一しているようです。前述のように「英国」という表現も結局は「エゲレス」「イギリス」に由来するもので、特に混乱回避の役は果たさず、結局多くの人の理解は「英国=イギリス=イングランド」にとどまっているというのが私の印象ですが、一応このブログでも便宜上UKの訳語として基本的に「英国」を使っています。

私が英語で自己紹介する場合は、”I’m from Scotland” と言い、「それどこ?」という返事が返ってきた場合には “Britain” と補足します。私は大学の卒論でスコットランド史をテーマにしたのですが、その時お世話になった恩師は「日本でもそろそろブリテンという表現を使うべきだ」というのが持論で、私も卒論では「ブリテン」を使いましたが、残念ながら史学界でも一般社会でもなかなか普及する兆しがありません。また、UKという表現もアメリカ合衆国を指すUSやUSAに比べると日本での認知度は低いようですし、その和訳である「連合王国」も、やはり一部で採用の努力があったものの定着に至らなかったようです。「ビルマ」が「ミャンマー」になった時のように、公式通達で強引に「ブリテン」または「連合王国/UK」で統一させるというようなことはできないんでしょうかね。

もっともスコットランド議会与党のSNP (Scottish National Party) が国民の説得に成功し、スコットランドが独立するという事態にでもなれば、今の連合王国という枠組みも300年ぶりに解体することになるので、そんな悩みも解決してしまうわけですが・・・。